041:凍える

 叫んでいた。

 ずっと、ずっと、泣き叫んで、その声が耳の奥にこだましていた。


 黒い服の葬列が、小さな棺を抱えて進む。

 アーネストはその先頭をただ歩いた。傍らにいるはずの妻は、ここにはいない。いや、もう、アーネストの知る妻はどこにもいないのかもしれない。

 乗馬の練習中の事だった。

 カトリアはついに精神を完全に壊してしまった。泣く、叫ぶ、狂ったように暴れる。もう、人前に出られる状態ではなくなってしまった。

「……アンドレア。」

 今は小さな箱に横たわり、じっと眠る息子の名を呼ぶ。

「私は、どうすればいい……。」

 妻が泣く、だからずっと我慢していた涙が、アーネストの頬に一筋流れた。

 どうして、こんなに早く。

 あの子が返ってくるなら、この命なんて、いくらでも捧げるのに。

 だが、どれだけ名を呼んでも、もう「おとうさま」と少し舌足らずに呼ぶ声を聞くことも、カトレアと共に笑う姿を見ることも、あの小さな身体を抱きしめることも、もう、何もできない。

 辛くてたまらない。

 カトレアも、もう二度と正気に戻らないのではという不安が後をついてまわる。

「どうすれば……。」

 辛くて、辛くて、たまらなかった。

 姿さえ見ることもできなかった新たな命、息子、妻の精神。

 神はどれだけ、奪えば気が済むのだと、アーネストは息子の棺を抱いて慟哭した。

 心が酷く寒い。

 凍えるほど。

 もうずっとだ。

 もうずっと長い間、アーネストの元に春は来ていない。

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