038:シンドローム(医学用語で症候群)
春になった。気候は確かに暖かく、周りも心なしか、朗らかな空気が満ちる。先の戦が勝利で終わったのも影響しているのだろう。犠牲者も比較的少なく、兵達は、予想されていたよりも、ずっと早く帰ってくることもできた。
そう、春になったのだ。
だが。
「カトリア……。」
我が家の春は、どこへ行ってしまったのだろう。
空気は冷たく、冷え切っている。
抱きしめる妻も、日々泣き暮らしている。
そんな母の様子に息子の笑顔も少なかった。
アーネストが戦から戻ったのは、つい先日のことだ。
きっと、新しい命を抱いた妻と息子が、笑顔で迎えてくれることだろう。
そう思いながら、帰途についた。
だが、アーネストを迎えたのは、泣き腫らした顔で、黒い喪服を纏う妻と、その隣で、不安を滲ませる息子。
いるはずの、もう一人の子供がいない。
だが、それを妻に訊ねることは出来なかった。
その姿が何よりも、如実にその理由を語っていた。
後にアーネストが不在の間、家を任せていた執事に聞いた話では、早産、その上相当の難産で、カトリアの命が助かったこと自体、奇跡なのだという。
その言葉通りカトリアは、床に臥せる日が増えた。
珍しく起きている日も、日がな一日泣き続けていた。
君が生きていて良かった。
その言葉さえも、彼女を傷つけてしまいそうで、アーネストにできたのは、ただ隣で傍にいる事くらいだった。
カトリアは日々、窶れていった。情緒が不安定になり、感情的になることも多かった。医師には心の病だと言われたが、それでも、それでも、まだ、この頃は、カトリアもアンドレアの前では優しい母のままだった。
だが、悲劇はそれだけでは、終わらなかった。