039:少女
「リィナ殿……。」
彼女の表情が全てを物語っている。
知ったのだ。
引きつった顔の少女を見下ろしたまま、ハミルはただ茫然としていた。
秘密が知られてしまった。そのことに、もっと動揺するかと思っていた。
だが、胸に沸き起こったのは、安堵。
リィナが周りに話せば、行く末は打ち首、よくて国外追放であるだろうはずなのに。
それよりも、もう秘密を抱えずに生きられることへの安堵が胸を支配する。
「リィナど――」
「私! わ、私…だれにも、だれにも言いません! だから……」
だが、リィナは震える手で自身の身体を抱きしめて叫んだ。その声が真っ暗な空間に溶けて消えていった。
何故、彼女の方が追い詰められて、泣いて、叫ぶのだろう。
ハミルがゆっくりと、リィナの前にしゃがみこんで、彼女の顔を覗き込んだ。
「どうして。……言っても良いんですよ。」
リィナの目が驚きに見開かれる。
「な…なんで、それじゃあ、ハミル様が……。」
「いいんですよ。もう、いい………」
疲れてしまった。何もかも。
ハミルは壁に手をついて、リィナの肩に頭を預けるように、彼女に体重をかける。
「ハミル、様……。」
戸惑うリィナの声を聞きながら、ハミルは息を大きく吐く。
人の体温に、規則的な呼吸音に安心する。
もし、この安心感に包まれているならば、久しぶりに、よく眠れる気がするのに。その温かさが離し難い。
それでも、離さなければ。
分かっているのに。
それなのに、身体が言うことを聞かない。
「つらいのですか……?」
リィナの手がハミルの背にまわった。吐息に混じるような彼女の小さな声が、耳の鼓膜を通って、心に響いた。
「―――っ」
今まで、見て見ぬふりをしていた自分の弱い部分。
それを絡めとられていく。優しく、ほどいて溶かしていく。
辛いのは、はじめに、姫の為にも拒むべきだったものを、拒めなかった自身のせい。だから、こんな優しさに触れる資格など、自分にはない。
そう、思うのに。
ハミルは気が付くと、リィナをかき抱いていた。
強く、息も詰まるほど。
リィナの手がハミルの背を撫でる。赤子をあやす母のような優しさをのせて。