032:光
月日が経つのは早いものだ。最近、特にそう思う。
美しい妻に、今年三つになった息子。この冬を超えて春になれば、またもう一人。
「おとおさま! お外であそんできてもいい?」
また降り出した雪にはしゃぐ息子の頭をなでて、あったかくしてから行きなさい、と微笑んだ。その忠告を聞くが早いか、はい! という元気のよい声だけ残して、もう息子の姿はなかった。今頃、侍女たちが手袋やら外套やらを手に、彼を追いかけまわしているだろう。
「あなた、アンドレアは?」
「外で遊ぶと言ってたよ。」
窓越しの雪景色に目を細め言った。だが、すぐに振り返って、目立ってきたおなかをかばって歩く妻に手を差し出す。
「君も、体を冷やすのはよくない。暖かい部屋にいたほうがいいよ、カトリア。」
掴んだ手を引いて、暖炉の傍まで彼女を導いた。
「そんなに過保護にならなくても、大丈夫よ?」
だが、そんな夫の様子にどこか嬉しそうに彼女は笑った。
四年前。あんなにも気鬱だった、姫との婚姻は、始まってみれば今までの心配はなんだったのだろうと思うほど、幸せなものだった。
王に溺愛されて育った姫なのだから、さぞ我儘で苦労することだろうと思っていた。だが、そんな想像とは裏腹に、実際接した姫は、万事控えめで、夫を立てることを知っている、まさに良妻賢母、と言われるような女だった。
「カトリア。」
「はい。」
どうしたの、と彼女は小首をかしげる。
「次の戦に出ることになった。この子の誕生に立ち会えそうにない。……すまない。」
少し膨らんだ妻の胎を撫でて、つい昨日下された命令を告げた。
今降っている雪が止み、雪解けを迎えれば、戦が始まる。生まれてくる新しい家族は、大地に若葉が生え、綺麗な花が咲く頃だという。その頃、きっと自分は戦場にいるだろう。
「お仕事、でしょう? なら仕方がないわ。……必ず、帰ってきてね。そうでなければ、許さないわ。」
彼女は冗談めかして笑ったが、その瞳の奥には、不安がチラついている。
「その時は、三人で出迎えて。帰ってくるから、必ず。」
家族がいてくれるから、帰ってくることができる。自分がするのは、その道しるべが、光が、消えないように守ることだ。