033:確証
「あの……、兄さまはいますか?」
小さな扉を叩く音、ディークがそれを開けると、彼の視線のはるか下から声がかかった。
「ええ、いらっしゃいますよ、陛下。」
「ユティ、入っておいで。」
エセルがにっこり笑って手招きすると、ユティは満面の笑みで扉をするりと抜けて、兄の元へと走っていた。
数日前から、ユーリティアス今上陛下がエセラディート王兄殿下の元へと来るようになった。
エセルが幽閉を解かれてしばらく、何の音沙汰もなかったというのに、どういう心境の変化があったのか、ディークは知らない。だが、どうやらこの幼い王が兄をとても慕っているらしい事は確かだった。
アイリア皇太后はエセルを王の手本となるよう、呼んできたのだという。王族としての心構えだとか、そういったものを教えるはずだったらしいが、エセルはそれ以外の面でも、実に「手本」らしい。知識が幅広く、教え方も上手い。今では教師陣よりユティに出された宿題に対する質問は、大方エセルの元へとやってくる。
今日は何も手に持っていないところを見ると、単純にお喋りにでも来たらしい。
「今日は何をしたの?」
「今日は、えっとルイア先生が来ていて……。」
ユティが心なしか渋い顔をした。そんな弟の様子に、エセルも忍び笑いをもらす。
「ああ、厳しいでしょ、彼女。」
「う、はい……。」
ジュディス・ルイア、現在ユティの作法教養の講師をしている壮年の女性である。エセルの頃も同じ人物が講師をしていたらしく、エセルも懐かしげにユティの話を聞いている。
「私はよく箒持って、追いかけられたなぁ。」
「ほ?!」
兄の何気ないつぶやきにユティは目を見開いて、その顔をまじまじと見る。
「私はユティほど、真面目じゃなかったからね。」
そう言って笑いながら、エセルは弟の頭をぽんぽんと撫でている。ユティはまだ、箒…? と言って、首をかしげている。
こうしているとまるで親子のようだ。
ディークもほのぼのとしたその光景に、笑みをこぼしながら、今しがた侍女の手によって届けられた、いつもより少し多めのお菓子とお茶を二人の前に置いた。