030:消える
振れた場所から熱が広がる。
熱に浮かされて、思考がまとまらなくなる。
翻弄されるような荒々しさはなくなっても、振れる肌に縋りつきたくなる。
「………すまない、ムリ、させた。」
背中に感じる彼の肌、筋肉、鼓動、吐息。その全てに意識が持って行かれそうになりながら、七恵は小さく首を振る。
「大丈夫だよ、将人くん。」
後ろにある将人は、どんな顔をしているのだろう。
確かめたい。でも、怖くて振り向けない。
「将人くん……?」
将人は何も言わない。不安になって呼びかける。
ギシとベッドが軋んで、将人は七恵のうなじに口付ける。優しい口付けだった。
そして、その優しい口付けを掻き消すように、七恵の腕を乱暴に掴んで仰向けに押し倒した。
「まさ……、あっ―――」
将人は七恵に噛み付くようなキスをする。
長いキス、唇を離した時には息が上がり、七恵は潤んだ目で将人を見上げた。
「………、叶恵。」
「なぁに?」
将人が一瞬だけ眉を顰めた気がした。だが、それはほんのわずかで、すぐに無表情になる。将人が何を考えているのか、窺い知ることは七恵にはできない。
将人はもう一度七恵の唇を塞いだ。
熱が湧きあがった。涙も。
それを悟られぬように、七恵はぎゅっと目を瞑る。
唇が離れる。
「……………叶恵。」
将人の叶恵を呼ぶ声が頭で反響する。
その反響に紛れて、七恵が消えていく。