024:紅葉

「アーネスト!」

 城門の前でネリアが手を振っている。アーネストもそれに軽く応えながら彼女の方に歩いて行った。

「すっかり有名人ね、アーネスト。」

「そんなことないよ。」

 アーネストは照れを隠すように頭を掻く。

 今年二十二歳になるアーネストは、史上最年少で一個小隊を任される軍人にまでなった。だが、位階の昇進と比例して、仕事量や責任も増えていく。月一回はネリアに会いに行っていたアーネストも、今ではほとんど手紙のやり取りで、こうして二人があって話すのは、実に半年ぶりだ。

 春の除目で昇進を果たし、この半年間、仕事に慣れるのに四苦八苦し、最近になってようやくこなれてきた、といった具合だった。

 そんなわけで、久しぶりの纏まった休暇。ネリアは家でじっとしていられず、城を大きく囲む城門の前、民衆に解放されている広場で、アーネストが現れるのを、今か今かと待っていた、というわけだ。

「ね、アーネスト。疲れてないなら、少しお散歩してから帰りましょう?」

「ん? うん、いいよ。」

 ネリアに導かれるようにして歩く大通りは、すっかり秋の様相だった。赤い紅葉が舞う。

「………もう、秋なんだな。」

 アーネストがそう呟くと、ネリアは、ふふと笑って、アーネストの腕にぎゅっと抱きついた。

「やっぱりね。仕事、仕事で外なんか見てなかったでしょう? もうこんなに時間が経ったんだから。」

「……ネリア。」

 ネリアは一層アーネストの腕にしがみ付いた。

「寂しかったんだから……。」

 拗ねたようなネリアに、アーネストは弱り切った。

 ネリアの頭を撫でて、何とか機嫌を取ろうとする。

「………ごめん。」

 そう小さく謝ると、ネリアはとがらせていた唇を解き、にっこりと微笑んだ。

「いいの。こうして時間を取ってくれるだけで、本当はとっても嬉しいんだから。」

「ネリア……。」

 ネリアは今度はアーネストの手を握った。

「アーネスト、昇進おめでとう。あなたの夢に、また一歩近づいたね。」

 アーネストは、ネリアの手を握り返した。

Copyright (C) Miyuki Sakura All Rights Reserved.
inserted by FC2 system