023:華
オーフェスからアリステーラへの贈り物は、毎日のように続いている。ドレスや装飾品、詩集や絵画など、その種類は多岐にわたる。
リィナは今日の贈り物である、真っ赤なガーベラの花束を抱え、アリステーラの部屋へと赴いた。
「まぁ、リィナ。届けてくれてありがとう。とても、素敵ね……。」
花を届けたリィナに天使のような微笑みを向けるアリステーラは本当に美しい。うっとりと華を見つめるアリステーラは、その姿も、まるで一枚の絵画のようだった。
美しく、その上物腰も柔らか。他の奉公先での話に聞くような横暴も無い。素敵な主人に仕えていると改めて、リィナは思った。
その日の夜。
リィナはアリステーラの寝支度を済ませ、侍女達の詰めている部屋へと戻ろうとした時の事。
「あ! 櫛が一本無い……。」
リィナは他の侍女達に先に戻ってもらうように告げ、一人でアリステーラの部屋へと戻った。
まだお休みになっていないといいのだけれど……。
さすがに眠ってしまった主人を叩き起こすような事案ではない。
眠っているようだったら、今日は諦めて明日に謝ろう。
リィナはそう決めて、アリステーラの部屋へと向かった。
程無くして、彼女の部屋が見えてくる。
……あれ? ハミル様は?
いつも、姫の部屋の前に黙って控えているはずの騎士の姿が無かった。部屋の前に彼の姿が無い事など、今まで一度だってあっただろうか。
違和感を感じながらも、リィナは部屋の戸を叩こうとした。
だが、その寸前で手を止めた。
………話し声?
部屋の中から話し声が聞こえた。
いけない事だと思いつつ、リィナはそれを聞こうと扉に耳を寄せる。
アリステーラ様と、……ハミル様だわ。
この二人ならば何も、夜に二人きりという事を除けばだが、問題ないはずだ。だが、これまで何の問題も無かったのだから、今更どうという事もないはずだろう。それに、故郷を同じくする二人だから、何か他人に聞かれて困るような話も、あるのかもしれない。
リィナは、そう思った。
だが、何故か、リィナはそこから動く事も出来ず、そのまま話を聞き続けた。
そして、聞いてしまったのだ。