020:血

 呪わしい。

 こうなってしまってから、何度言われたか分からない言葉だ。

 ネリアは何度目か分からない溜息を吐く。

 王宮からの使いが来て早半年以上が立った。良い気候だった外が暑くなって、また寒くなろうとしている。もう幾月もしないうちに雪が降り始めるだろう。

 先代の王が得体の知れぬ魔女とつくった子の遺児。それがネリアであるらしい。

 ネリア自身ここに来てはじめて知ったのだ。母は知っていたのか、引き離され今も城下に住む母とは連絡を取れないので、それも分からなかった。

 得体の知れぬ術を使うとかで、ネリアの祖母である人は、随分と気味悪がられていたらしい。その息子、ネリアの父も同じように扱われ、今は、その娘であるらしいネリアもその例に漏れなかった。

 邪険にするなら、そっとしておいてくれればよかったのに。

 ネリアはそう何度も思ったが、王家の血をひく方だから、と帰宅は許してもらえなかった。

 ネリアは用意された水のようなものが入った平皿を見下ろす。ネリアは指を小刀で切り付け、滲んだ血をその平皿に落とした。

 血が水に混ざって溶けていく。

「えっと……『力を示し給え』。」

 教えられた文言を呟く。

 平皿の水が輝き発光する。

「―――っ」

 その光がおさまるとその水に変化が起こっていた。

「………紫。」

 平皿の水が変色し、紫色に染まっていた。

 祖母、父と扱えた術、それの力のほどを見る術だという。何の力も無ければ、何も変化しない。

 だが。

 ネリアの前にある水は著しい変化を示した。

 無色透明だったはずの水が、紫色になって、未だにそこにあった。

 足の力が抜ける。

 床に座り込んで漏れそうになる嗚咽を飲み下そうとした。

「―――っぅ……」

 自分は確かにこの血筋であるらしい。

 もう、逃げられない。

 いつも通りの日々がさらに遠くへ行ってしまったような気がした。

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