018:切

 そのまま流されるように、将人の手に引かれ、朝に独りで辿った道を戻る。

 部屋に、将人の部屋に戻っているのだと分かった。


 公園にいる。


 携帯電話越しの彼の声に跳ね起きて、部屋を飛び出した七恵だったが、その時の想いが冷えるとひどく不安になった。

 本当にこれで良かったのかな。

 彼女の手を握る彼の手は、七恵にまけず冷え切っている。これは雨によるものだけだろうか。彼は今この瞬間にも後悔して、手を離すんじゃないだろうか。

 こわい。そう思った。

 今すぐ逃げ出してしまいたいほど。

 しかし、七恵は結局将人の手に導かれるまま、歩みを止めなかった。きっとこの手を離せば、彼との関係が切れてなくなってしまう。

 歩みを止めることなど出来なかった。




「寒いか?」

 七恵は将人の声に無言で首を振った。

 再び足を踏み入れた彼の部屋は、朝に出てきたままのようだった。

 将人はとってきたタオルを七恵の頭にかぶせ、自身も濡れた髪を拭いている。七恵もタオルを手に取って、髪を押さえた。

「先にシャワー浴びてこい。風邪ひくぞ。」

「……将人は?」

「お前の後で入るから。」

 七恵は少しためらったが、大人しくその言葉に従った。

 濡れて張り付いた服を脱いで、ひんやりしたタイルに足を付ける。頭からかぶった熱いシャワーは、身体を温めることには成功した。

 だが、心までは無理だったらしい。

 寒さとは別の震えを抑えるように、七恵は自分の身体を抱いた。

 これから、どうなってしまうんだろう。

 言いしれぬ不安が七恵を襲った。

 ずっとここで隠れていたい衝動に駆られる。

 だが、早くしなければ彼こそ風邪をひいてしまう。七恵はシャワーを止めて、脱衣所へと出た。置かれていたバスタオルだけを巻く。濡れた服を再び着る気にはならなかった。

 七恵は意を決して脱衣所を出た。

 彼が求めるのが叶恵ならば、私は叶恵となろう。

 そう思いながら。

Copyright (C) Miyuki Sakura All Rights Reserved.
inserted by FC2 system