017:蒼

 皇太子と皇太子妃のお出かけ。

 当然何人かの付き人が近侍しており、その中には、あの素っ気ない侍女、それからイーデルもいる。

 女性が歩いていくには少し距離があるため、今は皆馬上の人となっている。

 姫は一人で乗れないのかもしれないが、あの侍女の操る馬の後ろに乗っていた。そして、その侍女にくっついたまま、全く離れようとしない。

 そのため、話す機会、として誘ったはずだというのに、まったく二人きりになれそうもない。他の者たちは、少し後ろに控えているが、侍女は気をつかう素振りすらない。

 これでは、誰と出かけているのか分からないじゃないか……。

 目の前には美しい花が一面に広がり、空を仰げば、青がどこまでも広がっている。

 零れそうになる溜息を何とか押し込め、侍女の後ろに隠れる姫に笑顔を向けた。

「美しいでしょう? この時期は沢山の花が咲いて……、特に今日は良いお天気ですから、より鮮やかに見えるんです。」

 姫は侍女の後ろに隠れたまま、コクリと頷いた。そして、掴んでいた侍女の服を引き、彼女の顔をじっと見つめる。

「……下に降りてみたいそうです、殿下。」

「え、ああ。そうですね。」

 僕は馬を降り、人に預けると、姫に手を差し伸べようとした。

 が、その時には既に侍女と共に地面に降りていた。

 仕方がなく、二人を先導する形で、花畑へと歩いてゆく。咲いている野花の名前やら花言葉やらを説明しつつ歩いていると、二人が足を止めていた。

「何かありました?」

 戻ると、その足元には蒼い花が咲いていた。姫が、というより、侍女の方が気を留めたらしい。

 侍女がその花に手を伸ばす。その手が花弁に触れるか触れないか。

 その時、ガサリと草が動いた。

 蛇だ。

 そう気が付いた時には、侍女の手にその牙が刺さり、白い手から血が流れ出していた。威嚇だけのつもりだったのかもしれないが、蛇はすぐ彼女の手を離す。

 そして、その後ろで真っ青になった姫はこう叫んだのだ。

「―――――姫さまっ!!」

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