007:失われた
いつからだろうか、彼女の思考が読めなくなったのは。
私が彼女の騎士となった時、初めて間近で見た彼女は、十三と言う年の割にひどく大人びて見えたものだった。だが、それはすぐに間違いだったと悟った。すまして座っていると、その歳よりも遥かに上に見えたが、普段の彼女は年相応に子供っぽく、無邪気だった。私を慕っている事には気が付いていたが、騎士と王女、身分違いも良い所だった。だから、彼女の気持ちには気が付かないふりをして、自身の気持ちは、考えることすら放棄して、彼女の傍に騎士としてあり続けた。
それから五年が経ち、彼女が隣国の王子に嫁ぐことが決まった。
きっとこれで彼女とお別れなのだと思った。
そのほうが良かったのかもしれない。
だが、彼女は貴国へ伴う唯一のものとして、私を望んだ。
私は彼女と共に祖国を後にした。
王命、それを言い訳に。本当の理由は、彼女に「一生傍に」と請われたからだった。
彼女が嫁いだ先は良い所だった。人も良く、妻となる女が伴ってきた男に対しても、彼女の夫となる男は寛容だった。妻の情事には興味が無いのかも知れなかったが。
そうして婚儀を済ませた彼女は、いつしか凄惨なまでの美しさを持つようになっていた。そして、故国にいた頃持っていたはずの無邪気さを失い、初めて会った時に感じた、異様な大人っぽさ、今までの彼女とは一線を画する何かを持つようになった。
触れていなければ、消えてしまいそうだった。
ある夜の事だ。
彼女が私を呼び出した。
彼女は少し前から、私に口付けをねだるようになっていた。その時の恍惚とした表情も、消えゆくような美しさがあった。
今度は、どうなるのだろう。
彼女は部屋の鍵を閉めた。
私は気が付かないふりをした。
「私に触れて。」
そう言った彼女はぬけるように白かった。
触れれば、壊して、しまわないだろうか。
よろしいのですか、そう問うた私に、彼女は間髪入れず頷いた。そして、一歩、また一歩と近付いてくる。
「貴方で私を満たしてちょうだい。」
彼女の手によって、シャツのボタンが外される。そして、そろりと彼女の手が滑り込む。
彼女は何を考えているのだろう。
私には何も分からなかった。