001:つながり
「一生、私の傍にいてちょうだい。」
私は彼にそう言ったわ。真面目な彼が断れない事、知ってるのにね。
ほら、あまり表情を変えない彼だけれど、困った顔してる。相当戸惑ってる時よ。
彼は何と返すかしら。何故、と問うかしら。それともさすがに断る?
私は告白にも思える、さっきの言葉を言った時よりドキドキして、彼の言葉を待つ。
けれど、彼が発したのは、そのどちらでもなかったの。
「一生…で、よろしいのですか。」
「………ええ。」
その返しは想像すら出来なくて、でも、彼らしいといえば、とても彼らしい問いだったわ、私を気にかけるような言葉。いつも私を優先する、彼らしい。
私は神妙に頷いたわ。その時の彼の表情は、何とも言えない顔で、どんな感情で私を見ていたのか、よく分からなかったわ。
それから幾ばくもなく、私は結婚したの。相手は隣の国の第二王子。私より五歳年長ではじめて見たときは、自分が随分子供な気がしたわ。王子は優しく毒の無い人だったけれど、私はそんな彼が嫌で堪らなかった。
私に触れる手を消してしまいたいと思うほどには。
幸せなふりはしていたけれど、心から満足できたのは、あの人と二人だけの静かな時だったわ。生涯共にいると誓った彼は、私に仕える騎士として、一緒に国を渡ってくれたの。
私への愛や情じゃなくて、責任感のせいなのは知っているけれど。それでも、嬉しかったの。
「キスして。」
そう言うと、貴方は叶えてくれた。少し困った顔をしていたのは、最初だけだった。
今は自然と甘いキスをしてくれる。
でも、私はもう一度、あの困った顔が見たくなったの。
真夜中に貴方を呼び出して、部屋の戸の鍵をそっと締めたわ。
「私に触れて。」
そう言った時のなんとも言えない表情。そして、その顔のままそっと聞き返すの。
「よろしいのですか。」
今度は間をおかずに私は頷いて、彼にそっと近寄ったわ。そして駄目押しのように言うの。
「貴方で私を満たしてちょうだい。」
私は彼のシャツの隙間から、そっと手を滑り込ませたの。
さあ、私に触れて。あのおぞましい感触を消して。
もう私は、貴方とのつながりが無いと生きられないの。
それをもっと感じたいのよ。