棄てた君

前話「奪われたお前

 次に会った時、君を殺す――。


 そう言ってノイエンがここを去り、一体どのくらいの月日が経っただろうか。

 一月(ひとつき)? 一年? それとももう、百年は過ぎてしまった?


 はじめは彼を探して近くの町まで出たことはあった。しかし、彼はまるではじめから存在すらしなかったかのように、何の痕跡も残さず消えてしまっていたのだ。

 寂しかった。

 戻ってきて、と何度泣いたか分からない。

 それでも彼が帰ってくることはなかったし、私の日常が変わることもなかった。


 何も、しなければならないことはなく、愛しい人もいない中で、ただただ無為に過ぎていく日々。

 知識を得ること。それだけを(よすが)に生きていた。


「ノイエン、あなたはいずれ、帰ってくるのでしょう……?」


 彼は「次に会った時」と、そう言った。

 彼は私をどこかで憎んでいたのかもしれない。だから「殺す」と言ったのかもしれない。

 そう思いもした。殺されるのは怖い。

 でも――


「あなたがいつか、会いに来てくれるなら、私は……」


 自死を選ぶことも出来ない。


 臆病な心を抱えたまま、私はただ待つのだ。


「此度の旅人は、随分お早い到着だこと――」


 いつか来たる、あなたの訪れを。

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