004:孤独

 身を切るような寒さ。天井近くの小窓から雪が吹き込み、目の前をチラチラと舞っている。

 ここに来てから何度目の冬だろうか。

 冷たい石の上に、ただ黙って腰を下ろす男は、白く煙る己の呼気を見つめ思った。

 確かそう、五度目になる。

 この五年の間、男はこの部屋から出ることを許されなかった。ただ外界と男を繋ぐのは、朝夕と規則正しく差し入れられる食事だけ。だが、重い鉄の扉の向こうにいるその主は、今もって男女の別さえ分からなかった。

 男はただ一人この場所にありながら、孤独を感じた事は無かった。その食事の主が、毎日欠かすことなく訪れるからかもしれない。たとえ、顔すら見えずとも。

 しかし、今日は一段と冷え込んでいる。そのせいだろうか。いつもなら、そろそろそれが訪れる頃合いだが、訪いはありそうな気配もない。

 外の寒さに阻まれているのやも知れぬ。

 男はそう小さく息を吐く。零れる白い息が、今はひどく陰鬱に映った。

「……来たか。」

 男はついと顔を上げ、扉のそのまた先に意識を向ける。

 だが、男が待ち侘びていた存在とは違うらしい。

 扉がガチャガチャと音をたて、そして、ギィと嫌な音をたてて開いた。

 扉を開けた側近らしい男を押し退け、恰幅の良い男が入ってくる。

 それを見ていた男は座ったまま不遜に微笑み、入って来たばかりの男を見上げた。

「久しいな。そう…五年振りか。」

 泰然とそう嘯く男に、立ったままの男は苛立たしげに顔を歪めたが、直ぐに表情を取り繕い、笑った。

「そちらも……お元気そうで。」

「……私が生きているのが不満か?」

 男は事もなげに呟くと、ゆっくり立ち上がった。目の前の男はびくりと身体を震わせて、じりと後退する。

 変わらず、臆病な男だ……。

 男は前にいる丸々と太った男を睥睨し嘆息した。

 男が立っただけと分かったそれは、余裕の態度を再びつくって何事も無かったかのように微笑んでみせた。

「さて……。では、来て頂きましょうか。―――エセラディート殿下。」

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