第一話シルヴィーの精霊使い
序章崩壊の兆し
「陛下、ただいま戻りました。」
夜も明けきらない薄暗い部屋の中、静かに男が部屋へと入ってきた。戻ったその足でここを訪れたのか、部屋に入ってきたその男は旅装のままだった。
部屋にいたもう一人の男は、挨拶もそこそこにして、さっさと報告をするようにと促した。男を使いに出したのはつい幾週間前のことだったはずだが、もうかなりの時間待っているような、そんな気がもう一人の男はしていた。
旅装の男ももう一人の男に、心得ているというように頷いた。あまり良い報告ではなかったが、黙っていても仕方が無かった。それに、彼の主である眼前の男も、その分かりきっている結果を確かめたかっただけで、端から良い報告を期待しているとも思えなかった。
「フィサラの『柱』も崩壊が進んでおりました。」
「そうか……。」
部屋にいた方の男は顎に手をやり、深い溜息を吐いた。旅装の男もつられるように深刻な顔をする。自分達だけではどうにもならないところまで、事態は深刻化してきている。
「次は……シルヴィーですか。」
「ああ。だが、お前は……。」
部屋にいた男は小さく溜息を吐いて、首を振った。
「もっとも、他にまわせる人員はいないのだが。」
どうしたものか、といった表情の男に、旅装の男は暫く考え込んだ後、口を開いた。
「では、……我が娘へ、ご下命ください。火の精霊使いです。まだ新米ですが。」