澄んだ空気と特別な朝焼けに
その日は珍しく雪が降っていた。
「さむっ……」
自宅である安アパートの鍵をかけ、錆が目立ちはじめた階段をカンカンカンと音を立てながら降りる。
最後の一段を飛ばし、地面へと着地する。
ふと空を見上げた。
雪雲が立ち込めて、空は薄い灰色に染まっていたが、気分は不思議と高揚している。
その時、降ってきた雪の一欠片が鼻先に当たり、日菜子はぴゃっと身体を震わせた。
「早く行こ、っと!」
コートのポケットの中には小さな財布が一つ入ってる。
日頃はすっかりキャッシュレスに慣れてしまった日菜子だが、今日ばかりはしっかりと小銭をその中に忍ばせていた。
「やっぱり千円かな……。いやでも、五円――『ご縁』も……」
歩を進めれば石の鳥居が見えてくる。人もにわかに増えはじめた。
「今年はどんな年になるのかな……」
新年の朝。
早く帰ってこたつに包まりたいような。
でも、この寒さも嫌いじゃないな。そんな風にも思える、少し不思議な日。
お題「新年」