飽和する闇

 美しい夜だった。

 黒は澄み、艶やかで――、とけるようだった。

 手を伸ばせば触れられそうで、しかし決してそれは叶うことがない。


「……あなたみたいだわ」


 目の前の男が目を瞬かせ、そして目を細める。


「何がだい?」


 この上なく優しい顔をした男。その目の奥はどこか冷えきっている。


「……いいえ、なんでもないの」


 女は男の首に腕をまわす。


 私はこの冷えた目が、いっとう愛おしいのだ。


 そんなことを言えば、あなたはまた、その冷えた目で優しく笑んでくれるのだろう。

お題「飽和」

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