「15」のカード

「お前はいずれ、地獄へと落ちるだろう」


 青い顔をした占い師は、引いたタロットカードを掲げて私にそう言った。


 派遣切りのリストラを告げられた帰り道。ふらりと、けれどどこか縋るような気持ちで入った小さな店だった。

 これから良いことがある。今が一番酷い状況なだけで、これからは上がっていくばかり。

 嘘でもそう言ってほしかったのだ。

 それなのに――


「あんまりじゃない……?」


 私は辺りを見渡した。

 全体的に照明が落とされたような暗い――、神殿のような場所だ。


「私、さっきまでたしかに……」


 ふと右手を見れば、軽く握り潰されて、べこりとへこんだ缶ビールがある。

 一人孤独にコンビニ飯と安い缶ビールでヤケ酒していた。その名残が確かに手の中にある。

 だというのに、気が付けば周囲は見知らぬ場所だ。


 ああ、もしかしてあのクソば――占い師の言うことが当たってしまったの? ここは地獄で、私は急性アルコール中毒で死んでしまった?


「はは……」


 なんて笑えない冗談だろう。

 もう起き上がっている気力すらなく、私は仰向けに地面へ横たわった。


「……はぁ」


 目を閉じる。このまま二度と目覚めたくない。


 そう、思った時だった。


「花嫁様!!」

「……は?」


 突然響いた声に私は跳ね起きた。

 すると目の前には、いつの間に現れたのやら、ローブ姿の小柄な老人がいる。髪やら眉毛やら髭やらでもふもふしている――声から察するにお爺さん、のようだ。


「……あの?」


 おそるおそる声をかけると、彼は顔を輝かせ――、あ、いや、毛で見えないが、そんな気配がした。


「ああ、ようございました! お倒れになっておいででしたので、お加減がお悪いのかと」

「え……、えと、その……、体調は問題、ないです……?」

「それはそれは。花嫁様に何かあっては一大事ですから。ささ、お立ちになれますか? どうぞ、こちらへ」

「え、えっと、あの……!?」


 そうして、私は見知らぬ老人に腕を引かれていった。


「あの、『花嫁』って!?!?」

「ほっほっほ……!」


 老人は上機嫌に笑うばかりで、怪しさ満点だった。


 しかしこの時手を振り払わなくて、本当に良かったと、後になって私は思うことになる。

 その後私は見目麗しい冥王に出逢い、心優しい彼の伴侶となる。

 愛する夫と沢山の子供達に囲まれ、大変幸せな日々を送ることになるのだが――。


「あのクソば――占い師は許さないわ……!」


 傷心の相手になんてこと言うのだ、あと冥界と地獄をいっしょくたにするな、とぷりぷり怒っていると、夫はそれさえかわいいと言ってくるのだから始末におえない。

お題「カード」

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