生き血を啜る化物

 人は彼らを生き血を啜り生きる化物と呼ぶ。


「ねぇ、わたしの血は美味しいのかしら」


 少女はこてんと首を傾げ、目の前で口元に赤い色を滲ませる美しい男に問いかけた。

 男は唇についた少女の血ををぺろりと舐めて、ニヤリと笑う。


「気になるかい?」

「ええ、とても」


 男はよく、少女の血を甘いと言った。しかし少女にはそれが、他の人間とどう違うのか分からない。


「そうかい。でも残念ながら、人間には知覚出来ないのだそうだ」

「どうして?」


 男は少女の頬に手をのばし、ふれる。


「君が『甘い』のは、君の身体にある生命エネルギーがそういう味だからさ。我々は、人間の体液を介してそれを摂取して生きているんだ」


 少女は、ぱちぱちと目を瞬かせた。


「体液……? 血でなくてもよいの?」

「そうだね。最も取りやすい場所というだけだ。……ならば、一番上質なのは何だと思う?」


 首をひねる少女を見て、男は忍び笑いをもらす。


「答えは涙、さ。零れる一滴に感情が詰まっているほと美味になる」

「なら、わたしが泣けばあなたは喜ぶのね」


 その瞬間を想像したのか、眉根を寄せる少女に、男はニッと笑った。


「そうさ、だからたくさん泣いておくれ。……ああ、ただし――悲しいのは駄目だ。悲しみは味を悪くする。何より君が悲しむ中での食事なんて、不味くて食べられたものじゃない」

お題「泣く」

Copyright (C) Miyuki Sakura All Rights Reserved.
inserted by FC2 system