夜の星空のようなお前の

 彼女の瞳は、深い森の奥で見る夜の星のような輝きがあった。

 暗い闇色、その中に散りばめられた輝く虹彩は、私を容易に引き込み虜にした。


 この輝きを、永遠に私のものにしたい――。


 そう願ってやまなくなるまで、そう時間はかからなかった。


 それを宿すのは美しい少女だ。彼女の中にあってこそ、この輝きは損なわれない。

 だが、年月と共にこの肉の器は劣化していくことだろう。このまま留めておかなければと、強く思った。

 しかし、薄汚い血を流させるなどもってのほかだ。

 だから私は、彼女と人里を遠く離れた。そして、長い旅の末に雪で閉ざされた大地に足を踏み入れたのだ。

 長き旅路の中で少女は色香の匂い立つ女となっていた。何よりその美しい瞳は、更に神秘的な輝きを秘めるようになって、より私を惹き付ける。

 私は雪の上に薄い肌着姿の女を押し倒した。

 彼女は抵抗せず微笑む。この年月で、私に無類の信頼をおくように施したからだ。

 そうしてから、私は命じた。


 ここで一晩、身動きせず、微笑みを絶やさず、そして何より目を閉じることなく過ごしなさい、と。


 女は素直に、はいと答えてその通りにした。

 私はその様を、少し離れた場所でじっと見つめる。

 朝日が顔を出した頃、私は女の上にうっすら積もった雪を払い、彼女を抱き上げた。

 そして、彼女のために設えた椅子に座らせる。

 朝日に照らされ、微笑む女は美しかった。

 私は彼女を見つめ、ふと思う。


 これは狂気だ、と。


 女の瞳に魅せられた私と、そんな男の命じるまま雪の中で微笑み続ける彼女。

 一体どちらが狂っていたのだろうか。


 この閉じられた世界ではこの「狂気」こそ、あるべき姿なのかもしれない――。

お題「目」

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