星の海

「ここは星の行き着くところよ」


 絵本に出てくる魔女のような、大きな帽子をかぶった女は暗い海に流れ着いた私にそう言った。


「星の行き着くところ……?」

「そう。『星の墓場』と呼ぶ人もいるわ」


 打ち寄せる波が手を掠めていく。だが、水に触れたはずの手は濡れることはない。

 その水をすくってみても、感触はたしかにあって、暗い色の何かはある。しかし、そこには何も存在せず大気に溶けていった。


「何故、星の墓場と?」

「星がめぐりめぐって、最後に行き着くところだから」

「なら……、私は『星』なのですか」


 訊ねると、女は不思議な微笑を浮かべる。

 その表情は、私の問いを肯定しているようにも、否定しているようにも見えた。

 私は彼女の答えを待たず、ゆっくり立ち上がる。

 海から流れ着いていたようなのに、やはりどこも濡れていない。

 不思議な場所。

 しかし不快ではない。


「いきましょう」


 女が言う。

 どこへ、とは言わない。

 私も聞かなかった。

 ただ、この不思議な女といるのは、悪くないと思った。

お題「星」

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